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これだけは知っておきたい「リンパ浮腫」〜林明辰先生×アボワール中村真由美さんトークセッション

2023.01.25

乳がんや子宮・卵巣がんなどのがん治療後、3〜4人に1人がなるといわれている「リンパ浮腫」。リンパ浮腫は、どうすれば防げるのか?発症してしまったらどうすればいいのか?……このような不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

今回は、最新の画像検査を併用したリンパ浮腫手術の第一人者でいらっしゃる林 明辰先生と、乳がん患者用の下着を開発・販売しているアボワールインターナショナルの代表で、ご自身も乳がんサバイバーでいらっしゃる中村 真由美さんのトークセッションの様子をレポートします。

林 明辰

亀田総合病院リンパ浮腫センター長

画像検査を用いたリンパ浮腫手術の世界的第一人者

中村 真由美

アボワールインターナショナル株式会社代表取締役

乳がんサバイバーという自身の経験から、乳がん患者の下着を開発・販売

当記事のトークセッション動画はこちら!

改めて知りたい「リンパ浮腫」って何?

足をさする女性

中村真由美さん(以下、中村):林先生、リンパ浮腫っていわゆる「むくみ」なのでしょうか?

林明辰先生(以下、林):人の身体は、約6割が水分でできています。正常な状態であれば、細胞の中に取り込む水分と細胞の外にある水分は2:1ほど。このバランスが崩れ、細胞の外にある水分が増えた状態が「むくみ」です。むくみは「全身性のむくみ」と「局所的なむくみ」に大別されます。
皮膚の下に水が溜まることを「むくみ」と一般的に呼びますが、人の身体において、リンパ液を運ぶリンパ管が問題を起こし、局所的に皮膚の下にリンパ液が溜まり「むくむ」のが、リンパ浮腫です。リンパ浮腫の場合、たとえば乳がんの場合はがんを患ったほうの腕だけ、子宮がんや卵巣がんの場合は足だけにむくみが見られるのが特徴です。

人の腕や足の中には、指先など遠いところから身体の中心に向かって太いリンパ管が10〜15本前後走っています。リンパ管とは、リンパ液を通すための管です。リンパ浮腫においては、このリンパ管の流れが悪くなるに従い徐々に狭窄・閉塞していきますが、それに伴いリンパ液が漏れ出てしまい、そのままにしておくと不要な脂肪やタンパク質がその周囲に蓄積していきます。

治療の過程でリンパ節郭清や放射線治療、化学療法を受けるとリンパの流れが悪くなるため、リンパ浮腫のリスクが出てきます。さらに、これらのうち複数の治療法を経験していれば発症のリスクはさらに上がります。ただ、昔はうでやあしが太くなってから治療をしていたものですが、今は、できるだけリンパ浮腫を「発症させない」「悪化させない」ことが大きなテーマ。リンパの流れが悪くなっている状態からリスクを発見でき、適切な予防が始められる時代です。

中村:がんサバイバーの中には、リンパ浮腫の不安を抱えている人がたくさんいます。具体的にどんな状況になったら、どこを受診すればいいのでしょうか?

:リンパ浮腫を発症させないために大切なのは、リンパ液の漏れをコントロールすることです。まずは、現時点でリンパ液の漏れがあるのかどうか検査することをおすすめします。リンパ浮腫の検査は、医師がいる病院のリンパ浮腫外来や形成外科で受けられることが多いです。乳腺科や婦人科の主治医に紹介状を書いてもらったうえで検査するのがベストでしょう。乳腺科や婦人科の主治医に「紹介してもらえない」「取り合ってもらえない」という状況であれば、直接紹介状がなくても診察してくれるリンパ浮腫外来や形成外科を受診するのが良いと思います。

検査したうえで治療が必要になったときに大切なのは「保存療法だけ」や「手術だけ」にとらわれないことです。基本的に、リンパ浮腫の治療の中心になるのは保存療法ですが、症状の改善が乏しい場合や悪化が見られる場合には、補助的に手術を検討することも大切です。しかし、手術も保存療法もどちらもしっかり対応できるという病院は多くありません。だからこそ、主に保存療法を行っている施設であれば、検査や手術が可能な施設と連携が取れているか、あるいは主に手術を行っている施設であれば、術前術後の保存療法のことしっかり考えてくれているか、この視点を持って主治医や医療機関を選んでいただければと思います。

リンパ浮腫の症状

:「うでやあしが太くなった」「左右差がある」という段階では、皮下でリンパ液の漏れ溜まってしまっている時間が長くなり、もうすでに皮下に脂肪沈着や組織の線維化が認められる状態です。一方で、太くならない方もいらっしゃいます。ここは、体質や食生活によっても大きく異なります。よって、リンパ浮腫は外見だけでは判断できません。外見的な変化のみではなく「重だるい」「痛い」「しびれる」といった主観的な症状が見られることも多くあります。

また、リンパ浮腫が進行すると、皮膚のバリア機能や静菌緩衝作用、温度調節、排泄作用などが低下し、雑菌やアレルゲン物質などの刺激が進入しやすくなります。皮膚が硬くなるのも、リンパ浮腫で少なからず見られる症状です。

中村:“乳がん患者あるある”だと思うのですが「夕方から夜にかけて腕が重だるくなる」という方が多いんですよね。こういったことも、リンパ浮腫の症状に見られるのでしょうか?

:時間帯で症状が変わるというのは、リンパ浮腫でよく見られます。むしろ、ずっと重だるいということは少ないですね。良いときと悪いときがあるのがリンパ浮腫の特徴です。

中村:気温が高かったり、湿気が多かったりするとむくみやすい印象もあります。

:個人的な見解にはなりますが、気温が高い・湿度が高い・気圧が低い……これらが原因でリンパ浮腫が悪化するのをこれまで外来で度々目にしてきました。たとえば「飛行機に乗った」「登山した」という方が直後に圧壊(編注:外部から圧力がかかって細胞などが壊れること)し、病院に来られるケースも少なくありません。エビデンスレベルは低いのですが、エピソードとして多いのでやはり気をつけなければなりませんね。

リンパ浮腫にならない・悪化させないために

:リンパ浮腫を発症しないようにする、あるいは悪化させないために最も大切なのは、太らないことです。少し耳が痛い話かと思いますが、リンパ管は脂肪の層にあるので、脂肪が多くなってしまうとただでさえ悪くなりかけているリンパの流れがさらに悪くなってしまい、悪循環に陥ってしまいます。

また、スリーブやストッキングを用いて弱い圧から圧迫を始めるのも予防には効果的かもしれません。圧迫療法によるリンパ浮腫の発症予防はエビデンスがないということになっていますが、圧迫によって一定の予防効果があるという報告も出てきており、私の患者さんでも同様のケースが見受けられます。エビデンスレベルではまだ低い予防方法ではありますが、将来的に、圧迫療法はリンパ浮腫の発症・増悪(編注:「ぞうあくと」読む。症状や疾患が悪化すること)予防のための一つの手段になるかもしれません。

気温、湿度、気圧によって症状が出たというエピソードも少なくないとお話しましたが、梅雨の時期や台風の前、飛行機に乗られる患者さんには「スリーブやストッキングをしっかり使いましょうね」と私からお伝えすることもあります。

中村:スリーブやストッキングで圧迫していれば安心なのでしょうか?やはり、夏はスリーブやストッキングは暑いですよね。私の知り合いに「夏は暑いからつけない」という方がいるのですが、涼しくなった頃には浮腫がひと回り大きくなっていたんです。

:すでにリンパ浮腫を発症している方は、スリーブやストッキングを用いて圧迫したうえで四肢を動かしたり運動したりすることで、筋ポンプ作用によって効率的にリンパ管を動かせます。リンパ管の動きが悪くなっていても、周りの筋肉が動くことでリンパ管も間接的に動き、リンパ液の流れがよくなることで悪化や発症を防げるのです。とはいえ、圧迫さえしていれば安心ということはありません。

  • いつから予防・治療しているか
  • 治療歴(リンパ節郭清、放射線治療、化学療法をしているか)
  • ダメージを受けているリンパ管の本数

これらによって、発症や悪化のリスクは大きく異なります。リンパ管が1〜2本ダメージを受けているだけならしっかり圧迫して保存療法を続けることで、悪化を避けられるかもしれません。しかし、ダメージを受けているリンパ管が複数あり、リンパ液の漏出量が多ければ、いくら圧迫をしていても悪化してしまう可能性はあります。大事なのは、検査を受け今のリンパ浮腫の状況をまず知ること。それを知ったうえで、効果的なその他の保存療法や外科治療の必要性を検討することです。そして治療中も、進行度は常に確認していただきたいですね。「スリーブをつけているから安心」「保存療法をしているから大丈夫」というわけではありません。

中村:太らないほうがいい。そして、筋ポンプ作用で効率よく筋肉を動かせる。……ということは、リンパ浮腫のリスクがある人は圧迫したうえでの運動がマストになってくるのでしょうか?

:非常に難しいところなのですが“適切な状況下”での運動が求められます。圧が弱すぎても効果は見込めませんし、逆に強すぎても悪化してしまいます。単に圧迫して運動すればいいわけではなく、まずは保存療法を行うリンパセラピストの方に状況を把握してもらったうえで、圧の強弱を一緒に決めるべきでしょう。

中村:適切な圧をかけたうえで、適切な運動をするということですね。適切な圧であれば、筋トレもしていいのでしょうか?

:筋トレのメニューによりますね。腕や足、手首、足首に負荷がかかりすぎる筋トレは、あまりおすすめしません。細かいところですが、圧の強弱だけでなく、運動のメニューも担当の主治医やリンパセラピストの方と一緒に決めるのが良いと思います。

中村:食事についても、皆さん気になるところだと思います。一般的には「塩分を摂らないほうが良い」といわれていますが、食事面でどのようなことに気をつければ良いのでしょうか?

:「塩分を摂ったらリンパ浮腫が悪くなる」というわけではありません。もちろん、摂りすぎはよくありませんが、摂らなさすぎるのもよくありません。リンパ浮腫というのは、リンパ管の機能の問題です。塩分は、適切な量であれば問題ないでしょう。食べ物で気をつけなければならないのは、脂質です。研究でもいわれていることですが、脂質のコントロールには気をつけていただきたいですね。

中村:アルコールも、適度であれば飲んでもいいのでしょうか?

:「飲んだらむくむ」といわれることもありますが、アルコール自体には利尿作用があります。実は、お酒を飲むとむくむ方の多くは塩分の摂りすぎです。また、お酒を飲んですぐに寝てしまうと、抗利尿ホルモンが作用してむくんでしまうのです。おつまみや飲み過ぎに気をつけていれば、お酒を飲んでも問題ないと思います。

あとは、保存療法において見落とされがちな「肌のスキンケア」。皮膚を清潔に保ち、湿潤環境を保つことで乾燥を予防し、皮膚が働きやすい状態にしてあげることも大切です。

「不安」をそのままにしないことが大切

医師に相談する女性

中村:先日、先生の手術を受けた患者さんにお話を伺ってきました。「林先生にリンパ管と静脈をつないでもらって、ものすごくすっきりして楽になった」と大変喜んでいらっしゃいました。私は仕事柄、これまで1,000人以上の乳がん患者さんとお話してきましたが、こんな手術を見たのは初めて。こんな素晴らしい手術があるということを、より多くの方に知っていただきたいです。

:皆さんにお伝えしたいのは、まず「1人で悩まないで」ということです。「発症が怖い」「すでにうでやあしが太くなってしまった」など、色々なお気持ちやご状況があると思いますが、検査や治療に“遅すぎる”ということはありません。リンパ浮腫の不安をそのままにせず、今より悪くしないことが大切なのです。そしてもうひとつ、現在は、リンパ浮腫の検査や治療法は日々進歩しており、以前よりもリンパ浮腫の発症・増悪の予防ができるようになってきています。まずは勇気を出して、形成外科やリンパ浮腫外来、あるいは主治医の先生に声をかけてみてください。

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