がん治療後に起きるリンパ浮腫とは?原因から対策方法まで解説

2022.11.04

がん治療後に起きるリンパ浮腫とは?原因から対策方法まで解説

がん治療を受けた後は、リンパ浮腫が起きることがあります。リンパ浮腫について説明を受けているものの、どうすれば防げるのか、症状を和らげられるのか今ひとつ理解ができない場合もあるでしょう。そこで本記事では、がん治療を受けた後に起きることがあるリンパ浮腫の症状から原因、対処法・対策法まで詳しく解説します。なお、リンパ浮腫には保存的治療と外科的治療がありますが、今回は保存的治療にフォーカスして解説します。

リンパ浮腫とは

リンパ液が流れる管を「リンパ管」といいます。リンパ管にはリンパ液を回収する役割がありますがあす、何らかの原因でリンパ液をうまく回収できなくなることがあります。その結果、皮下組織にリンパ液が溜まって「むくみ」が生じた状態が「リンパ浮腫」です。

リンパ浮腫が生じるタイミングは、がん治療の直後の場合もあれば10年以上という長い期間が経過してから生じる場合もありますが、治療後3年以内に発症する方が7割を占めると言われています。うでやあしのリンパ浮腫の代表的な症状としては、重だるさや痛み、しびれなどが挙げられます。一度発症すると改善が難しく、また悪化しやすいため予防や早期発見による治療が大切です。

リンパ浮腫が引き起こす合併症

リンパ浮腫になると、うでやあしにできた小さな傷をきっかけに、皮膚とその下の組織に細菌感染が生じてうでやあし全体に炎症が起きる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という病気を発症しやすくなります。これは、リンパ浮腫が起きているところにおいて、免疫系の一端を担っているリンパ液の流れが悪くなるためです。

蜂窩織炎の主な症状は、広範囲の赤い斑点や熱を持った腫れなどですが、高熱が出ることもあります。皮膚を清潔・湿潤な状態に保ち、少しでも細菌感染のリスクを抑えましょう。

リンパ浮腫の原因

リンパ浮腫の原因は、がん治療の外科治療(リンパ節切除)、放射線治療、一部の抗がん剤治療などによってリンパ液の流れが悪くなることです。また、リンパ液の流れが悪くなったところに感染が起きたり、体重増加をきっかけにリンパ浮腫が起こりやすくなります。

ただ、これらの原因・要因がなくてもリンパ浮腫が生じる場合もあり、その全容が解明されているわけではありません。

リンパ浮腫の予防

リンパ浮腫は、なるべく発症を抑えることが重要です。発症したとしても、なるべく悪化しないように次の対策を行いましょう。

早期発見を目指す

リンパ浮腫を早期発見すれば、それだけ軽度の状態で治療を始められます。改善にかかる時間も短縮できるため、体への負担軽減に繋がります。リンパ浮腫を早期発見するには、むくみが生じやすい箇所とその確認方法を知ることが大切です。

むくみやすい箇所は下記のとおりですが、治療箇所やがんの種類で異なるため、担当医に詳しい説明を受けましょう。

・脇の下のリンパ節を切除した場合……切除した側のうで、脇の下

・お腹やあしの付け根のリンパ節を切除した場合……切除した側のあしあるいは両あし、下腹部、陰部

・放射線治療の場合……治療箇所の近く

・特定の化学療法の場合……前うでや手、下腿や足

むくみやすい箇所を手で触って確認しましょう。つまみにくい、皮膚が硬い、軽く押すと跡が残るような場合は、リンパ浮腫を発症している可能性があります。そのほか、定期的に両うでやあしの太さを測り、むくみによって太くなってきていないか確認するのも1つの方法です。

弾性着衣を使用する

弾性着衣とは、うでやあし、下腹部などに圧力をかけることでリンパ液の流れを促すストッキング、グローブ、スリーブなどのことです。弾性着衣は市販されていますが、どれを使用してもよいわけではありません。リンパ浮腫の状態に適した素材・形状・サイズ・圧迫圧のものを選ぶ必要があるため、まずは担当医やリンパセラピストの方に相談しましょう。

リンパ浮腫の予防には弾性着衣を使用する

適度に体を動かす

リンパ液の流れが悪くならないように、体を適度に動かしましょう。ウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳など、さまざまな運動方法があります。運動の種類や強度によっては、逆にリンパ浮腫が悪化することもあるため、担当医の指示のもとで行うことが大切です。

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スキンケアで感染予防に努める

リンパの流れが悪い箇所は感染が起こりやすくなるため、清潔な状態を保つように心がけましょう。石けんで皮膚を丁寧に洗い、十分にすすいでから清潔なタオルで水分を取り除きます。また、肌のバリア機能をサポートするために、保湿剤で肌のうるおいを保つことも大切です。

傷や虫刺され、やけどといったトラブルが起きた際に、細菌感染が起きるリスクを軽減できます。

感染予防のため、石けんで皮膚を丁寧に洗い、清潔な状態に保つ

肥満を防ぐ

肥満はリンパ浮腫の原因の1つです。そのため、バランスのよい食事や適度な運動を心がけて、肥満を防ぎましょう。1日3食、規則正しい食生活を送るとともに、主食・主菜・副菜・汁物の揃った献立にしてみてください。また、定期的に体重を計測することで、体重管理の意識が身につきやすくなります。

なお、肥満に良いとされるサプリや食品などは、その多くが医学的根拠に乏しい点に注意が必要です。消費カロリーを摂取カロリーが上回ることで脂肪が増えるため、カロリーの過剰摂取や運動不足に注意して、基本の体重管理を行うだけで問題ありません。

リンパ浮腫の対処法

リンパ浮腫は、適切な治療を受けることで症状を和らげたり進行を抑えたりできます。重症化すると生活に支障をきたす恐れもあるため、リンパ浮腫に気づいたらなるべく早く担当医に相談しましょう。

リンパ浮腫の自分でできる主な対処法は、次のとおりです。

・スキンケアで皮膚を清潔に保つ

・手で行うドレナージ

・弾性包帯や弾性着衣によって圧迫する

・圧迫した状態で運動を行う

これらの方法を複数組み合わせることで 、リンパ浮腫の進行を遅らせることができます。組み合わせ方やそれぞれの適切な方法については、医師から指導を受けましょう。

まとめ

リンパ浮腫は、がん治療の後に起きることが多いため、治療の前後に医師から説明を受けるでしょう。適度な運動やスキンケア、肥満を防ぐなど、いくつかの対策法があります。リンパ浮腫は、うでやあしの重だるさや痛み、しびれなどに 繋がるだけではなく、蜂窩織炎(ほうかしきえん)のリスクを高めます。リンパ浮腫に気づいた際は、なるべく早く医師に相談して適切な治療を受けましょう。

医師の林明辰先生

林 明辰:医師

2010年3月 順天堂大学医学部卒業、東京大学医学部附属病院形成外科医員、国保旭中央病院形成外科 主任医員などを経て、2020年4月より亀田総合病院リンパ浮腫センター長に就任、現在に至る。

リンパ浮腫手術におけるリンパ管イメージングの世界的第一人者で、超音波やOCT(Optical Coherence Tomography: 光干渉断層撮影)顕微鏡を利用し術前・術中にリンパ管の状態を診断する世界初の方法を確立。これまで国際学会での招待講演は40回以上、海外招聘手術は10か国に及ぶ。

現在、亀田総合病院・亀田京橋クリニック・東京リンパ浮腫手術センターを中心にリンパ浮腫の診察・治療を年間1500件以上行っている。

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