乳房再建術とは?術式・行う時期・経過・合併症などを紹介

2023.10.30

乳がんの手術で乳房を切除した場合、その見た目に悩む方は少なくありません。乳房の形や見た目を取り戻したい場合は、乳房再建術を受けることも1つの方法です。しかし、どのような手術をするのか、がんの再発を見逃しやすくならないのかなど、さまざまなことが心配になり決断できずにいる方もいらっしゃるでしょう。

そこで本記事では、乳房再建術の方法や行う時期、経過、合併症などについて詳しく解説します。

乳房再建術とは

乳房再建術は、乳がんの切除によって変形や喪失した乳房を可能な限り取り戻すための手術です。心理的ダメージはもちろんですが、乳房の形や見た目に関する患者さんご本人の身体的な悩みが小さくなります。例えば、乳房を失った感覚が和らぐほか、下着を着用するときに補正パットが不要になるなど、日々の生活への影響を抑えられる可能性があります。

乳房再建術は、乳房をすべて摘出する手術(乳頭乳輪温存乳房切除術を含む)を行った際に検討することが一般的です。

乳房再建術を行うタイミング

乳房再建を行うタイミングは次の2つです。

一次再建

一次再建は、乳がんの切除と同時に乳房を再建する方法で、同時再建や即時再建とも呼ばれています。合計の手術回数が1回のため、身体への負担を抑えることができます。ただし、手術時間と入院期間が長くなる可能性があります。

二次再建

乳がんの手術や化学療法などが一通り終了してから乳房の再建手術を行う方法です。2回の手術が必要なため身体への負担は大きくなりますが、乳房再建を行うかどうかをじっくりと考えて判断できます。

乳房再建の方法

乳房再建には、「自分の身体の一部を使う方法」と、「シリコン乳房インプラントなどの人工物を用いる方法」があります。乳房を再建すると、がんの再発の増加や再発の診断に悪影響が及ぶのではないかと心配になる方もいらっしゃいますが、そのような報告はありません。

それぞれの特徴やメリット・デメリットなどについて詳しく解説を見ていきましょう。

皮弁法(自分の身体の一部を使う方法)

皮弁法は、自分の皮膚や脂肪といった組織を採取して乳房の再建に使用する方法です。お腹や背中、大腿内側などから採取した組織を使用します。採取する部位に応じて向き・不向きがあるため、医師と十分に相談のうえで決めることが大切です。皮弁法のメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。

メリット

・血管が通っている組織をそのまま移植することで柔らかい乳房を再建できる
・人工物と比べてメンテナンスの負担が少ない
・人工物を用いた方法と比べて長期的な満足度が高いとの報告がある
・細菌感染が起きたときのリスクが低い
・身体の動きや姿勢に応じて乳房が自然に動く
・胸部への放射線治療歴がある場合でも、人工物を使用する方法と比べて術後に合併症が起こりにくい
・人工物を使用する場合に発生し得るリンパ腫やがんの心配がない
・1回の手術で大体の形を作ることができる

デメリット

・自分の組織を採取した箇所に大きな傷跡が残る
・人工物を使用する方法と比べて手術時間が長い
・移植した自分の組織が壊死するリスクがある
・組織が広範囲にわたり壊死した場合は乳房再建が困難になる

シリコン乳房インプラントを用いる方法

シリコン乳房インプラントによる乳房再建では、ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)と呼ばれる皮膚と筋肉を少しずつ伸ばすものを大胸筋の下に挿入し、ある程度の期間が経過してからシリコン乳房インプラントと入れ替える方法が一般的です。

乳がん手術と同時にティッシュ・エキスパンダーを入れる方法と、乳がん手術後に一定期間をおいてから入れる方法があります。シリコン乳房インプラントによる乳房再建のメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。

メリット

・胸部以外に傷跡が残らない
・自分の組織を使う方法と比べて手術時間が短い

デメリット

・シリコン乳房インプラントの破損、広範囲にわたる皮膚の壊死、手術部位に細菌感染が生じた場合は取り出す必要がある
・ティッシュ・エキスパンダーの挿入とシリコン乳房インプラントとの入れ替えで合計2回の手術が必要
・乳頭と乳輪を温存する場合、組織の拡張中に乳頭と乳輪の位置が変わることがある
・組織が薄いと、シリコン乳房インプラントの形が目立つ場合がある
・身体の動きに合わせて乳房が自然に動かない
・硬くなったり変形したりする場合がある
・シリコン乳房インプラントに関連するリンパ腫やがんの発生が報告されている
・シリコン乳房インプラントを留置している期間中は1~2年に1回の画像検査が必要

乳房再建術の術後の経過

乳房再建は、どの方法でも若干の左右差が生じます。また、傷跡が気になる場合はその修正手術も検討した方がよいでしょう。乳輪乳頭再建も行う場合は、乳房再建から6か月以上空ける必要があります。

乳房再建術の合併症

一般社団法人「日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会」によると、2016年における乳房再建術において、ティッシュ・エキスパンダーの挿入の症例数は6,479件で、合併症が起きたのは629件(9.7%)でした。合併症の種類は、細菌感染や出血、血腫、エキスパンダーの破損、皮膚の壊死などです。

シリコン乳房インプラントの挿入の症例数は6,227件で、そのうち合併症が起きたのは277件(4.4%)でした。合併症の種類は、エキスパンダーと同様に細菌感染や出血、血腫、皮膚の壊死のほか、位置の異常や回転、露出、波打ち変形などです。

出典:一般社団法人 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会「2016年度乳房再建用エキスパンダー/インプラント年次報告と合併症について

乳頭・乳輪の再建も可能

乳がんの手術で乳頭と乳輪も切除した場合は、これらの再建も可能です。多くの場合は短時間で済み、日帰りで実施できます。切除していない乳頭に十分な大きさがある場合は、切除した方へと一部を移植します。採取できるだけの大きさがない場合や、将来的に授乳する予定の場合でも、乳頭の周りの皮膚を剥がして立体的に縫合する方法を選択できます。

乳輪の再建においては、乳輪と似た色をしている部分の皮膚や片方の乳輪の皮膚を移植します。移植が難しい場合は医療アートメイクによって乳輪を再建しますが、定期的な再着色が必要です。

乳房再建の費用

乳房再建には、保険が適用されます。乳房再建にかかる費用は、自分の組織を使用する方法とインプラントを使用する方法のいずれの場合も30万円程度です。また、高額療養費制度を利用すると、自己負担額は8~10万円程度に抑えることができます(適用区分ウの場合)。

なお、5~14日程度の入院が必要なため、入院費もかかります。

まとめ

乳房再建を受けると、喪失感や外見的な悩み、補正パットの使用などの日々の不便さを和らげることができます。乳房を再建する方法には、自分の組織を使う方法とシリコン乳房インプラントを挿入する方法があります。メリットとデメリットを理解したうえで、医師と話し合って自身にとって最良の方法を選びましょう。

■医療監修

西 智弘 医師
2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。

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