あなたは大丈夫!?「経済毒性」とは?不安を軽減する方法を紹介

2024.03.28

2023年9月にMICIN(マイシン)少額短期保険株式会社が勉強会を開催。一般社団法人患者家計サポート協会の代表理事で元看護師のファイナンシャルプランナー黒田ちはるさんと、乳がん経験者の方をゲストに迎えがんの治療費負担や収入の減少が患者さんやそのご家族の生活の質にどのような影響を与えるか。いわゆる「経済毒性(けいざいどくせい)」をテーマに実体験に基づいた情報交換がなされました。がん患者さんが「経済毒性」を解消し、安心して生活するためにはどうすればいいのでしょうか?勉強会の内容をもとに解説します。

<看護師FP® 黒田ちはるさん>

CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、看護師。10年間、看護師としてがん患者やその家族のケアに携わる中で、経済的なつらさが身体や心に影響を及ぼしていることを目の当たりにし、ファイナンシャルプランナー(FP)として2016年に独立。全国のがん患者さんやご家族専門のオンライン相談や、医療機関での相談員を行うほか、医療機関や企業でがんとお金に関する講演を行っている。2023年4月がん治療の経済毒性を解決するための団体として、一般社団法人 患者家計サポート協会設立、代表理事を務める。

がんをきっかけに家計が苦しくなる理由

がん患者さん専門のファイナンシャルプランナーである黒田さんの元には、年間約180件のお金に関する相談が届くそうです。

黒田さんの元へ相談に来た方を対象に実施した調査によると、9割以上の患者さんの治療は、公的医療保険が適用される標準治療のみを受けた(ている)と回答していました。公的医療保険には高額療養費制度があり、医療費の家計医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月で上限額を超えた場合、その超えた額が、国から支給されます。

がんの治療法の中には、高額療養費制度が使えない先進医療などもありますが、実際に高額な医療費がかかっているのはごく一部だと分かりました。

出典:2023年1月4日実施 黒田ちはるFP事務所公式LINE登録者アンケート

高額療養費制度の自己負担額の上限は、負担能力に応じて5段階に区分されており、たとえば、70歳未満で年収約370万円〜約770万円の所得区分では、毎月8万円強の個人負担となります。また、がんの治療は一度手術したらおしまいという訳ではなく、数か月~数年におよび投薬や通院が必要ですから、1年間で4回目以降は「多数回該当」という仕組みを利用でき、毎月の自己負担上限額は44,000円に引き下がります。

一方で、高額療養費制度では入院中の差額ベッド代や食事代、通院のための交通費や宿泊費などはカバーできません。これらの費用も加算すれば、年間100万円以上かかってしまう可能性があるのです。

なお、黒田さんの調査によると、がんを患ってから収入が下がった方は約75%に及びます。治療にかける時間が増えたり、体調不良で長時間働けなくなったりすることが主な要因とのこと。

出典:2023年1月4日実施 黒田ちはるFP事務所公式LINE登録者アンケート

黒田さんの元には、月収30万円~40万円の方が相談にいらっしゃることが多いそうです。そこから6~10万円月収が下がり、さらに医療費を捻出しなければいけないとなると、高額療養費制度を使えたとしても家計が厳しくなることは容易に想像できます。

がんの当事者・家族を悩ませる「経済毒性」とは?

そうした生活の変化が、患者さんやそのご家族の生活の質を落としてしまったり、治療方法の決定にマイナスの影響を与えてしまったりすることについて、近年は医師や専門家のあいだで「経済毒性」という言葉が使われ、注目されています。

なお、ホルモン治療を受ける場合は、数年〜十年ほどにわたり治療が続く可能性もあります。今回登壇された乳がん経験者の方は、がん再発防止のためにホルモン治療薬と1錠8,000円以上の経口分子標的薬を1日2回服用されているそう。保険適用で3割負担、かつ高額療養費制度を使っていても負担に感じており、「このお金を他のことに使えたらいいのに…と考えることもある」とコメントされていました。

金銭事情を理由に治療方針を変える人も

愛知県がんセンターが医師を対象に実施したアンケート調査によると「処方箋を発行したが薬局で受け取らなかった」「CTや化学療法を経済的負担で延期した」などの質問に対して、およそ85%が「ある」と回答したそうです。高額療養費制度を使えたとしても、家計の負担が重く、治療を受けることを躊躇している人がいることが分かります。

ほかにも、がんになると住宅ローンを利用するのが難しくなります。最近では共働きが増えて、ペアローンを組む家庭も増えていますが、乳がんを経験したことにより住宅ローンを借り入れできず、自宅購入を諦めたという例もあるようです。

経済毒性を解消する方法は?

黒田さんいわく、経済毒性の三大要素は「①支出、②収入・資産、③不安感」と言われ、中でも特に不安感に黒田さんは注目されているそう。相談できる人がおらず独りで問題を抱えてしまう患者さんが多いようです。

出典:「Carrera et. al, CA Cancer J Clin. 2018」参考に黒田さん作成

患者さんの立場で心がけたいポイントについて、黒田さんは次のように話されました。「不安の大きな要素は収入の減少なので、まずは無理なく仕事を継続できるように職場へ交渉しましょう。体調が優れず仕事を中断する必要があっても、辞めるのではなく、休職で傷病手当金などの公的保険制度を利用して収入を確保できるように会社と話し合いましょう。また、忙しい主治医にお金の相談をするのは難しい、恥ずかしいと感じるかもしれませんが、家庭への負担も考慮しながら最適な治療方法を探るためには、自分の気持ちを話してみるのがおすすめです。病院内にお金に関するサポートや患者支援相談窓口などがあるケースは、ぜひ活用してみてください」

ファイナンシャルプランナーへの相談については、がんの知識がある専門家に相談するのがおすすめです。ファイナンシャルプランナーは、一人ひとりの収入や家庭環境に合わせてお金に関するアドバイスをしてくれます。特に、ご本人やご家族ががんを経験している場合、がん治療にかかる費用の増加や収入が減ってしまう実情にも詳しいはずです。親身に相談に乗ってくれるファイナンシャルプランナーに相談できれば、自分に合った解決法を知り、不安を解消できるでしょう。

現在がんと診断されていない方は、民間のがん保険に加入しておくのもいいでしょう。毎月の保険料を支払う必要はありますが、実際にがんになったときに、治療費・入院費・通院費などの負担を減らすことができます。

また、がんを早期発見できれば、手術や治療の負担は少ないです。早期発見できるように、定期的に検診を受けるのもおすすめです。

まとめ

がんになると治療費やそれに関する諸費用がかかる一方で、しばらくの間働くことが難しく収入が減り、お金への心配が強くなる方が多いです。その結果、治療を諦めたり、ウィッグを作るのをやめたりと、治療の質だけでなく、生活の質に影響が出てしまう場合があります。

そうした状況の積み重ねから、毎日を楽しく過ごせず、将来に希望を持てなくなってしまう可能性があります。がん患者さん本人だけではなく、ご家族にも影響が及びます。

お金に関する不安を解消するためには、1人で抱え込まずに相談してみることをおすすめします。困ったことがあれば、会社・病院・ファイナンシャルプランナーなどに相談しましょう。

参考リンク

患者家計サポート協会(がんの患者さん向けのライフプランニングができるFPが在籍)
https://patient-support-fp.com/

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