乳がんブラジャーとは?【後編】開発者に聞く!適切なブラ選びと着け方・測り方

2023.05.31

乳がんブラジャーとは?【後編】開発者に聞く!適切なブラ選びと着け方・測り方

乳がん治療中や術後の悩みを解消する、乳がんブラジャー。前編では、乳がんブラを扱う3社の商品をご紹介しました。

前編はこちら>

後半の今回は、乳がん下着専門店「アボワール」の代表であり、ご自身も乳がんを経験された中村真由美さんに、アボワール設立の経緯や乳がんブラの適切な選び方をお伺いします。

中村 真由美

中村 真由美

アボワールインターナショナル株式会社

代表取締役

乳がん経験者という自身の経験から、乳がん患者の下着を開発・販売。

乳がんブラの課題とアボワール設立の経緯

─なぜ乳がん下着専門店を作ったのですか?

私も、乳がんを経験しています。治療が終わり、皮膚が落ち着いてきたころ、復職も決まっていたので「さぁ頑張るぞ!」との思いで、乳がんブラを探しに行きました。このとき、選択肢の少なさに驚愕。

ほとんどのブラジャーが、飾り気のないベージュです。お揃いのショーツなんて、もちろんありません。私の祖母も乳がんを患っていたのですが、まさにおばあちゃんが当時着けていたブラそのものだったのです。

おしゃれさはないし、身に着けても気持ちは上がりません。まるで、女性でいることを否定された気分でした。そして、不満であると同時に、これからの生活に不安も感じていました。「こんな下着では戦えない」と。

この想いが、アボワール設立の理由です。「私と同じような気持ちになっている人はたくさんいるはず」と思い、この方たちの役に立ち、自分も素敵なブラジャーを着けたいとの一心で管理職をしていた前職を退職し、アボワールを設立しました。

中村さんが感じていた乳がんブラの機能面の課題は?

私が手術をしたのは、2011年のこと。ちょうど東日本大震災が起きた日です。当時は、全摘手術される方が今より多く、乳がんブラといえば乳房を大きく隠すものがほとんどでした。

胸の膨らみを出すためにパッドを入れるのですが、パッドはとても軽いので、徐々に上にずれてきてしまいます。一方、重みのあるシリコンパッドを入れると、下を向いたときにブラから出て落ちてしまいます。そのため、職場の男性社員の前でシリコンパッドを落としてしまい、すごく恥ずかしい思いをしたこともありました。

今は、温存手術をされる方も多くいらっしゃいます。2013年からは、保険適用で乳房再建手術ができるようになったので、再建される方もいます。治療が多様化しているということは、胸の状態も多種多様なのです。

乳がん患者さんの年齢層も、どんどん下がっています。そして、多くの女性が社会に出ています。時代が変わり「隠す」だけでなく、左右の大きさの差を解消したり、美しいバストラインを作ったりすることが求められているにもかかわらず、商品開発がこれらのニーズに全く追いついていませんでした。

綺麗で自分に合ったブラジャーを着けた方々にはどんな変化が見られますか?

まず、引き出しを開けてカラフルで綺麗なブラジャーが並んでいることが嬉しいですよね。「今日はどの下着にしようかな」とワクワクしながら選べることが、どんなに素敵なことか。これは私も感じていることですが、初めてアボワールに喜びの声を寄せていただいた方の感想です。このご連絡をいただいたとき、私は嬉しくて泣き崩れました。「やっぱり私と同じように考えている人がいたんだ」と。

胸の状態にあったブラジャーを身に着ければ、Tシャツも着られます。これってすごく画期的なことなんですよ。綺麗なバストラインが作れれば、ストールやオーバーサイズの洋服で胸を隠す必要はありません。洋服選びが自由になると、皆さんよく外出するようになります。

そこから気持ちがどんどん明るくなるのです。目に見えて表情が変わっていくことで、ご本人だけでなく、ご家族も喜んでいらっしゃいます。「たかが下着1枚」と思うかもしれませんが、ブラジャーを変えるだけで社会性とともに人生に彩りが生まれます。

中村さん直伝!乳がんブラジャーの選び方

1.治療の経過に合わせたものを選ぶ

治療中 、退院直後、退院から数ヶ月後、腫れや痛みが引いた後など、状況によって適したブラジャーは異なります。アボワールでは、術後の経過や胸の状態に合わせて3つのステップに分け、それぞれのステップに応じた商品を展開しています。

STEP1「ふぁーすとシリーズ」

STEP1の「ふぁーすとシリーズ」は、術後すぐに着用できるブラ。胸や脇の傷に優しく、着脱しやすい設計にしています。クッション性の高い2枚のパッドは、胸の膨らみを簡単に作れるとともに傷跡保護の役割も果たします。裏面はパッドポケットの入り口を狭くし、下を向いてもパッドが落ちないようにしています。

STEP2「これからシリーズ」

術後、皮膚が落ち着いてきたら、STEP2の「これからシリーズ」をおすすめしています。ノンワイヤーでありながらも安定感があり、綺麗なバストラインが叶います。アボワールのブラジャーは、カラー、形、素材も豊富。「総レースブラジャー」は人気No.1の商品です。

STEP3「ときめきシリーズ」

腫れや痛みが引き、ワイヤー入りのブラジャーに挑戦したいという方にはSTEP3の「ときめきシリーズ」をお試しいただきたいですね。やわらかいワイヤーを使用しているので、女性らしいラインを表現しつつも肌あたりは非常に優しい商品です。もちろん、全商品にパッドポケットがついています。

3ステップをご紹介しましたが、必ずしもこのステップを踏んでほしいというわけではありません。前開きのブラから、すぐにワイヤー入りのブラを選ばれる方もいらっしゃいます。一方で、長年、前開きブラをご愛用いただいている方もいます。選びやすいように3ステップに分けていますが、好みやご自分の症状に合わせて選んでいただきたいですね。また、必ずしも乳がんブラを着けなければならないというわけではありません。スポーツブラや授乳用のブラ、カップ入りのタンクトップなどを身に着ける方もいらっしゃいます。温存手術をされた方や再建された方の中には、術前のブラジャーを使っている方もいますよ。

2.専門家に聞く

医師や看護師が、ブラジャーの選び方を教えてくれることはほとんどありません。かといって、下着売り場のスタッフに聞いても困ってしまうことでしょう。それ以前に、一般的な下着売り場には行きにくいということもあると思います。ですから、やむをえず「自己流」でいろいろと対策している方が多いんです。例えば、左右差があるからとブラの中にタオルを入れている方もいますし、綺麗なブラジャーを着けられないと諦めている方もいます。これは、聞ける人がいないからこそ起きてしまうことだといえます。

アボワールには、京都と東京にフィッティングもできるショールームを設けています。店舗に来られない方には、宅配試着のサービスをご提供しています。できれば、乳がんブラを選ぶときには専門家に聞きながら、実際に試してみていただきたいですね。乳がんを経験された方といっても、全摘した方、温存した方、再建した方などさまざま。乳がん専用のブラといっても、自分に合うものをご自身だけで探すのは難しいと思います。

3.パッド・シリコンパッドの選び方

温存手術、あるいは全摘手術をした方は、左右でバストの大きさが異なります。ブラジャーは、大きい胸に合わせて選んでください。小さいほうの胸には、パッドを入れて調整します。適切なパッドの大きさや素材は、左右差やお好み次第です。ポリエステルやウレタンのパッドは軽く、大きさが微調整しやすく、シリコンパッドは重みがあるので重心がずれにくいというのが特徴です。

1つのパッドだけで、大きさや形を揃えられるとは限りません。バストトップの高さが合わない場合は、布パッドで調整していくと綺麗なラインが作れます。アボワールのウレタンパッドは、ハサミで切ってご利用いただけるので、自然なバストラインを実現できます。パッドの形、重さ、素材も、さまざまです。摘出した部位や大きさに合わせて、こちらもフィッティングしながら選ぶことをおすすめします。

アボワールのウレタンパッドは、ハサミで切ってご利用いただけます

正しい乳がんブラの測り方・着け方

どうやってサイズを測ればいいの?

「背骨から健康な胸を通して身体の中心までの長さを測って2倍にしてください」 とよく言われますが、この方法では1人で測ることが難しいと思います。加えて、裸で測るとすれば、計測時のバストは上向きではありません。ですから、私たちはアンダーバストだけ測っていただき、トップサイズは術前のサイズや最近、購入されたブラのカップをお聞きしたうえで推測するようにしています。アンダーバストは購入時から伸びることもあるので、ご自身が思っているサイズとは限りません。特に乳がんブラは、締め付けNG。アンダーバストがきついと、背中に段差もできてしまいます。

─乳がんブラの正しい着け方は?

 https://youtu.be/LaBSf7hlri0

ブラの着け方も、症状によって異なります。特に術後は「正しく着ける」よりも「着脱しやすさ」を優先していただきたいですね。術後は、腕が上がりにくかったり、手に痺れが残っていたりするものです。例えば、アボワールの前開きブラや総レースブラは、下から履いて着ることもできます。前開きブラは、下のスナップを外せば息苦しさ軽減します。術後、間もないときは特に、楽に着脱できるか、着けていられるかを重視してください。

全摘手術を受けられた方については、手術跡が平らになるわけではありません。肋骨に沿って、体の側面に傾斜が生まれます。となると、カップに当たる部分だけでなく、脇側のボリュームを出さなければ左右差は解消されません。そのため、トップだけ合わせるのではなく、側面にもボリューム調整用のパッドを入れることをおすすめします。

乳がんブラの正しい着け方

全摘手術や温存手術後にアンダーバストの位置が合わない方は、カップの下のボリュームを調整できるパッドを入れてみてください。さらに、ワイヤーを抜いたり、長さを調整したりすることで理想的なカーブが作れるはずです。

私はこれまで、1,000人以上の乳がん患者さんの胸を見てきました。今回、乳がんブラの選び方、着け方、測り方を解説させていただきましたが、ブラやパッド、ワイヤーの適切な選び方や調整方法は一人ひとり異なります。皆さんの悩みや不満、不安が、他の方の参考となり、新たな商品の開発にもつながります。LINEでもお問合せを受け付けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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