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【前編】大切な人が、がんに—「支える家族」ゆえの葛藤や苦悩から生まれた(新しい)コミュニティ

2022.04.28

今回、お話を伺ったのは、がん患者の家族を支えるコミュニティ「パパリボン」。パパリボンは「大切な人を支えたい」という想いを堂々と語り合い、共に前へ進んでいける“支える側”のコミュニティを展開しています。

前編となる本記事では、がん患者の家族ゆえの葛藤や、コミュニティを立ち上げた経緯などについてお話しいただいた模様をお届けします。

【パパリボンのメンバー】  
・水谷真一郎さん(パパリボン代表、妻が乳がん患者)
・岡地里奈さん(パティシエ、17歳のときに母が乳がんで他界)
・Ayakaさん(広報担当、パパリボンの設立メンバー)  

1.家族ががんに……支える側の“リアル”

※SNSでは「パパリンさん」の愛称でも親しまれている水谷さん

水谷真一郎(以下、水谷):2018年に妻が乳がん(トリプルネガティブ、ステージ3b)と診断されて以降、私の環境は大きく変化しました。

当時、会社を立ち上げて1週間後に、妻の乳がん発覚でした。本来なら妻を支えるべき立場の私も目の前が真っ暗になってしまって……。それまでの私は仕事人間で、家のことは妻に任せきり。乳がんを患った妻のために何かできることはないかと考えたものの「あなたが仕事ばかりしているから私ががんになったのかもしれない」と言われると、肝心の妻とも会話ができなくなってしまいました。

「家族がしっかり寄り添ってあげてください」とか「家族でよく会話をしてください」とか言われますけど、実際には喧嘩も多いんですよね。加えて私は、妻の乳がんをきっかけに、仕事や会社のメンバーまで失ってしまいます。支えるべき立場になったことを明かすと、クライアントも社員も「奥様に寄り添ってあげてください」と言って離れていってしまいました。ひとりぼっちになってしまった私はどうすればいいのかわからず、そこから約2年間悩み続けることになります。

※SNSでも盛んに情報発信されているリナさん

岡地里奈(以下、リナ):私の母も乳がんのトリプルネガティブを患っていて、私が17歳のときに他界しました。母は、私が年長の頃に乳がんを宣告され、突然一緒に入浴してくれなくなりました。あるとき父に呼ばれ、母がいきなり目の前で裸になり、乳がんであることを知らされます。

母は余命宣告を受けていたそうですが、私は教えてもらえず、亡くなった後にそのことを聞いたときには「なんで家族の私に伝えてくれなかったの?」と、父のことが信用できなくなってしまいました。そのあと私は完全に心を閉ざしてしまって……。

「家族である父のことすら信用できないのに、友達や知人に本音は話せない」と思い、母が亡くなってからの半年間は学校にも通えなくなってしまいました。母が他界した半年後にようやく学校へ通えるようになりましたが、さらに辛かったのが仲の良かった友人に無視されてしまったことです。なぜ無視するのかを尋ねると、心無い言葉を言われ「そのような目で見られることもあるんだ……」と思い、なおさら人間不信になってしまいました。

2.「支える」ではなく「支え続ける」からこそパパリボンが必要だった

水谷:仕事や家族のことがうまくいかずに悩んでいたとき、私は「がん患者さんを支える立場の人に役立つ情報」をとことん調べました。しかし、病気や治療に関する情報はたくさんあるものの、私が本当に求めている情報にはたどり着けませんでした。一方で、家族が亡くなって辛い思いをした体験談とか、ハッピーじゃない情報は非常に多かった。そのときに「これは支える側を支え続ける輪が必要だ」と感じたんです。

パパリボンを設立した一番の理由は、妻の治療自体はうまくいっていたものの、2年後の検診で再発が見つかったことです。医者からは「これから一生寄り添わなければなりません」と言われました。そのとき、私は感じたんです。「支える側の立場として、2年前と同じことをこれからもずっと経験するんだ。そのなかで共存していかなければならないんだ」と。

今は女性の約9人に1人ががんになる時代。ということは、支える側の立場も同じ数だけ……いえ、もっと存在するはずなんですよね。それなのに支える側の声が少ないのは、みんな我慢をしているからなのか、発信する場が不足しているからなのか……。そのヒントが欲しくて、私はSNSで「がん患者さんを支える立場」のリアルな状況を発信するようになりました。

※パパリボン設立前から水谷さんを支え続けてきたAyakaさん

Ayaka:実は「支える側の輪が必要だ」と水谷さんが感じてからパパリボンが設立されるまでには、長い期間を要しています。設立に踏み切った背景には、私のひと言が影響しているようで……。私は家族にがん患者さんがいるわけではありませんが、パパリボン代表の水谷さんとは、クリエイティブ関係の仕事を通じて2020年1月に出会いました。水谷さんの奥様に乳がん再発が見つかったのは、私たちが出会ってすぐのことです。

水谷さんは「自分も辛いけど妻に何かしてあげたい」「妻に後悔させたくない」という気持ちを強く持っていました。一方で「普通に接すれば良いと言われたけれど、何が普通か分からない」「不安いっぱいで消えてしまいたいと感じることもあるけれど、頑張っている妻の前ではそんなこと言えない」など、ネガティブな発言をされることもあって。私はそんな水谷さんの姿を隣で見てきたので「これは水谷さん自身がしっかり活動できるような、そういう場所が必要だ」と感じたんです。

そこで私は「水谷さんの『得意』を活かして、クリエイティブデザインを通じてがん患者さんの家族を支える場を作られたらいいのでは?」 と水谷さんに伝えました。すると、すぐに水谷さんはテーブルに真っ白な紙を広げて「髭リボン」「オヤジリボン」「眼鏡リボン」「旦那リボン」など、候補となるコミュニティ名を書き始めたんです。

そして最後に書いたのが「パパリボン」。「当事者のためのピンクリボン」があるのなら「支える立場のパパリボン」があってもいい。2020年8月、パパリボンはこのような背景のもとに設立されました。

3.支える側同士だからこそ通じ合えるもの

※ときにはぶつかるものの、常に前向きなパパリボンメンバー

リナ:実は、私たち自身もパパリボンでの活動が生きる希望になっているんです。たとえば私の場合、これまで誰にも打ち明けられず一人で抱え込んでいた悩みも、家族ががんを経験した者同士だからこそ話せることがあって。

Ayaka:私はもともと保険の仕事をしていたのですが、お客様からさまざまな悩みを聞くなかで「もっといろいろな形で、多くの人のために役立つ仕事がしたい」と感じるようになりました。今ではパパリボンを通じてがん患者 さんの美容や運動に関わるプロジェクトに携わっているのですが、ずっとクリエイティブデザインの仕事がしたかったので、ここでの活動は凄くやり甲斐を感じています。それに「大切な人ががんになっていない立場だからこそ、より良いあり方をフラットに考えられるあなたの視点 もパパリボンには必要だ」と言ってもらえることがとても嬉しいんです。

水谷:私は、リナさんやAyakaさんに頼ってもらえることが嬉しいです。2人に対してかける言葉は、妻に声をかける際の練習にもなっています。

メンバー自身も、パパリボンでの活動がお互いの支えになっているんですよね。さらに、今では私たちの活動に賛同してくれるがん患者 さんやご家族がどんどん増えてきています。がんに関する コミュニティはたくさんあるけれど、パパリボンのようにがん患者さんとそのご 家族を支えるコミュニティはほとんどありません。当事者のリアルな声を発信し続ける私たちだからこそ、SNSを中心にコミュニティの輪が広がってきているのだと思います。

最近は、InstagramやClubhouse (アプリ上で会話・傍聴できる音声配信SNS)などSNSでの発信に力を入れています。「本気で乳がん を取り巻く状況を変えたい」という思いで活動する私たちの情報に、ぜひ触れていただきたいですね。これからも、がん患者さんを支える立場、特に家族という単位を軸にして 「ふわふわしている想いや希望」や「言葉にできずにいること」を少しずつ可視化し、問題提起していきたい。やりたいことがあり過ぎて時間が足りない日々ですが、少しずつ形になり始めているので今後のパパリボンにもぜひ注目していただきたいと思います。

今回は、パパリボンのメンバーが抱えてきた“がん患者の家族ゆえの葛藤”や、コミュニティ発足にまつわるストーリーなどをお届けしました。

後編では、幾多の葛藤・苦悩のなかから生まれたパパリボンが現在おこなっている活動の内容や、コミュニティを通じて実現したい世界観についてお話しいただいた内容をお伝えします。

後編に続く

【パパリボンのSNS】  
水谷さんのTwitterはこちら
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リナさんのTwitterはこちら
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AyakaさんのTwitterはこちら
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