「がんとの共生」をしていくキーワード がん対策推進基本計画とは?

2023.12.13

「がんとの共生」をしていくキーワード。がん対策推進基本計画とは?

がん対策推進基本計画は、がん対策を総合的かつ計画的に進めるために2007年に策定されました。その後、がん治療やがん予防を取り巻く環境、現状を踏まえ、2012年には第2期、2018年には第3期として新たながん対策推進基本計画が策定されています。

この記事では、2023年3月に策定された第4期がん対策推進基本計画の目標と構築すべき基盤づくりについて詳しく解説します。

がん対策推進基本計画の概要・変遷

がん対策推進基本計画がどのように変化してきたのか、第1~4期までの特徴について簡単に見ていきましょう。

第1期がん対策推進基本計画

2007年に策定された第1期がん対策推進基本計画の目標は、がんの診療連携拠点病院の整備と緩和ケアの提供体制の強化、そして地域がん登録の充実を図ることです。

第2期がん対策推進基本計画

2012年に策定された第2期がん対策推進基本計画には、小児がんの治療や支援体制の強化、がん教育、がん患者の就労といった社会的な問題への取り組みが盛り込まれました。さらに、2015年には「がん対策加速化プラン」が策定され、特に施策に遅れが見られる分野への強化が行われました。

第3期がん対策推進基本計画

2018年に策定された第3期がん対策推進基本計画では、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す。」という目標を掲げ、「がん予防」、「がん医療の充実」、「がんとの共生」の3本の柱に沿った対策が推進されました。

さらに、AYA(Adolescent and Young Adult:思春期世代と若年成人世代)世代、高齢者のがんといったライフステージ別のがん対策やがんゲノム医療の推進についても盛り込まれています。

第4期がん対策推進基本計画

第4期がん対策推進基本計画は、これまでの対策において医療機関によって進捗状況に差が生じていること、情報提供および普及啓発のより強い推進が必要であることを踏まえ、2023年3月に策定されました。現状の課題とその対策について言及されています。実行期間の目安は、2023年度から2028年度の6年間です。

第4期がん対策推進基本計画の目標

第4期がん対策推進基本計画の目標は、第3期までと同じく「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す。」です。分野別施策と個別目標は次のとおりです。

がん予防……がんの知識の習得、がんの予防、がん検診による早期発見・早期治療の促進によってがん罹患率・がん死亡率を減少させる

がん医療……適切な医療を受けられる体制の充実化によって、がん生存率の向上およびがん死亡率の減少、がん患者とその家族などの療養生活の質向上を実現させる

がんとの共生……がん患者が安心して生活し、尊厳を持って生きることができる地域共生社会を実現し、がん患者とその家族などの療養生活の質を向上させる

今回は、上記の中でも「がんとの共生」に着用して紹介します。「今後、がんを取り巻く環
境がどのように変わっていくのか」を確認しておくことで、がんを発症・再発したときの選択
肢が増えるため、ぜひ最後までお読みください。

第4期がん対策推進基本計画における「がんとの共生」の施策

第4期がん対策推進基本計画における「がんとの共生」の目標を達成するために、次の施策が講じられています。

相談支援および情報提供

方法解説
質の高い相談支援体制の整備多様化する相談ニーズに適切に対応できるよう、高品質な相談支援体制を整備する
相談支援体制を持続させるためのオンラインの活用場所や時間を限定せずに相談できる「オンラインの相談サービス」の普及によって、質の高い相談支援体制を持続させる
拠点病院や民間団体、ピア・サポーターなどとの連携相談支援を提供する拠点病院や民間団体、ピア・サポーター(同じ病気の経験を持つ人)などが連携し、患者や家族に対してより包括的な支援を提供することを目指す
ICTや患者団体、社会的人材リソースの活用情報技術(ICT)や患者団体、社会的な人材リソースを活用して、相談支援の充実を図る
要配慮者を含む患者や家族のニーズの把握特に支援が必要な「要配慮者」を含む患者や家族のニーズや課題を正確に把握したうえで、適切な支援を提供することを目指す
「情報の均てん化」に向けた情報提供の在り方の検討情報の均てん化とは、情報を平等に提供すること。相談支援を必要とする人々が適切な情報にアクセスできるよう、情報提供の在り方を検討し、より効果的な方法を模索する

社会連携に基づく緩和ケア等のがん対策・患者支援

方法解説
都道府県がん診療連携協議会による検討都道府県内のがん診療に関わる専門家が集まり、セカンドオピニオン(第二意見)の提供や緩和ケア、在宅医療等に関する情報提供の在り方について検討する
施設間の連携・調整を担う者の育成地域包括ケアシステムとは、地域の医療機関や介護機関、福祉施設などが連携して、高齢者や慢性疾患患者などの多様なニーズに対応する体制のこと。このシステムを活用し、がん患者に対しても拠点病院や地域の医療機関と連携して緩和ケアや在宅医療を提供する人材を育成する

がん患者等の社会的な問題への対策(サバイバーシップ支援)

方法解説
両立支援制度の効果と課題の明確化両立支援制度は、がん治療後に仕事との両立を支援するための制度。この制度の効果や問題点を把握し、どのように改善していくかを明確にする。
普及啓発活動の検討両立支援制度や社会的な問題への理解を深めるための啓発活動を検討する

ライフステージに応じた療養環境への支援

方法解説
療養中の教育支援体制の整備と遠隔教育の実態把握がん治療中や治療後の患者が教育を受けることができる体制を整備するとともに、遠隔教育の実態を把握する。
長期フォローアップや晩期合併症等の支援体制の構築がん治療後も患者を長期的にフォローアップし、晩期合併症などのケアを行うための体制を整える。特に小児・AYA世代に焦点を当て、適切な療養環境を整えるために関係省庁が連携して検討する
高齢がん患者の課題の把握と療養の在り方の構築高齢者のがん患者に特有の課題を把握し、地域における療養の在り方や適切なフォローアップ体制を構築する
様々な就労形態のがん患者の就労・離職の実態把握と就労支援の検討がん患者の就労実態を把握し、適切な就労支援を提供するための体制を検討します。
アピアランスケアにかかる相談支援・情報提供体制の構築がん治療によって外見に変化が生じた場合に、それをケアすることで苦痛を軽減する「アピアランスケア」を提供するための相談支援体制や情報提供を構築する
がん患者の診断後の自殺リスクや経済的課題等の把握と対策の検討診断後のがん患者の精神的な問題や経済的な課題に対して適切な対策を検討し、サポートを行う

第4期がん対策推進基本計画を支える基盤

第4期がん対策推進基本計画を実行するために、次のような取り組みが推進されています。

全ゲノム解析等の新たな技術を含む更なるがん研究の推進・「がん研究10か年戦略(がん研究の総合的かつ計画的な推進)」の見直し関係省庁の協力のもとで多様な分野を融合させた先端的な研究の推進
・「全ゲノム解析等実行計画2022(ゲノム解析はがんの治療法の開発などに役立つ)」の着実な推進 ・新たな予防、早期発見法などの開発
・ゲノム解析をがんや難病における研究、新薬の開発に利活用することの推進
・各分野の政策課題の解決につながる研究や評価指標にかかる研究の推進
人材育成の強化・高齢化や人口減少などを踏まえた専門的な人材育成の在り方や人材の効率的な活用などの検討
・がん医療の高度化に対応できる専門的な人材の育成および配置
がん教育およびがんに関する知識の普及啓発・学習指導要領に基づくがん教育の推進 ・各地域の取り組みの成果を他の地域に普及させる ・外部講師を活用したがん教育のための必要な支援の実施
・より効果的な手法を用いて、がんに関する正しい知識の普及啓発を行う
・事業主などが雇用者などに正しい知識を取得するように啓発する
がん登録の利活用の推進・質の高い情報収集につながる精度管理の実施継続 ・法規定の整備を含めた現行制度の見直しに向けた検討
・医療のデジタル化などの取り組みとも連携した、より有用な分析が可能な方法の検討
患者・市民参画の推進・諸外国の事例も踏まえた患者および市民参画の更なる推進のための仕組みの検討 ・参画する患者および市民の啓発と育成 ・医療従事者や関係学会に対する啓発などの実施
デジタル化の推進・「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」の各分野でICTやAIを含むデジタル技術を活用する ・医療のデータ化および利活用を推進する
・治験の被験者への説明や同意を電子的に取得する「eコンセント」の活用など
・治験のオンライン化など

出典:厚生労働省「第4期がん対策推進基本計画について」

ピアサポートや両立支援についてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひお読みください。

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まとめ

がんの治療と予防はもちろん、「がんとの共生」にも着目し、治療中や治療後に患者が適切なケアを受けられるとともに社会活動を行える世の中へと変えていくことが求められています。

がん対策推進基本計画については、国や医療者だけでなく、患者やその家族が積極的に利用することも重要です。また、今回解説した内容の中でも改めてチェックしておきたい用語を以下に紹介します。

用語意味
がんゲノム医療がん患者の遺伝子やゲノム(遺伝情報全体)を解析し、がん治療の個別化や効果的な治療戦略の開発に役立てる医療アプローチ
相談支援センター患者やその家族、介護者などが健康や医療に関する情報やサポートの提供を受けられる場所
PPI(ピーピーアイ。Patient and Public Involvment=患者市民参画)患者や一般市民が医療や研究に参画する取り組み
サバイバーシップ支援がんを克服して生活を続ける人々への支援
アピアランスケアがん治療に伴う外見の変化に対処し、患者の自尊心と自信を回復させる支援

がんを経験した方は、第4期がん対策推進基本計画における計画を支える基盤を参考に、自身が受けられる支援などについて、まずは最寄りのがん相談支援センターなどに相談してみましょう。

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