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【ピアサポート】乳がん・乳房再建の当事者同士で分かち合う「ゆるふわ相談会」@三井記念病院

2024.03.27

2023年12月、東京都千代田区にある三井記念病院にて、「乳がん・乳房再建ゆるふわ相談会」が開催されました。

目次

このイベントは、三井記念病院と乳がんピアサポートチーム「ゆるふわ」が合同で開催し、専門医(乳腺外科医・形成外科医)が参加。学びや交流を目的に、全国から50名ほど乳がんを経験された方々が集まりました。

前半は、事前に寄せられた質問に対して現役専門医がエビデンスに沿う形で、参加者ご自身の主治医とのコミュニケーションをしやすくなるような汎用的な解説がなされました。また、乳房再建の講演では、基本的な部分から最新のハイブリッド治療まで網羅され、参加者の皆さんも熱心にメモを取る姿が見られました。

後半は、一転して和気あいあいとした雰囲気。乳房再建経験者のお胸を直接見たり触ったりお話したりできる体感会と並行して、参加者同士の交流タイムがもたれました。ご自身の体験談をシェアし合うことで自然と打ち解け、居住地や年代関係なく交流が生まれていたのが印象的でした。

この記事では、質疑応答や講演の一部を抜粋するほか、登壇された3名の医師と、運営を行った「ゆるふわ」のいしさんへのインタビューをレポートします。

乳がん・乳房なんでも相談会
〜乳腺外科医 辻 宗史 先生〜

Q. 私は、ルミナルB(HER2陰性)ですが、ホルモン治療のみで抗がん剤治療は受けていません。友人は、同じルミナルBですが、抗がん剤治療を受けています。抗がん剤治療が必要な方とそうでない方を判断する何か指標はあるのでしょうか?

A.  治療方針を決めていくにあたり、ルミナルA、B、ルミナル-HER2、HER2、トリプルネガティブと、どのサブタイプに分類されるか検査をして決定していくわけですが、その境目はハッキリと分けられるわけではなく、グラデーションになっています。

そのため、質問者さまと同じルミナルタイプであっても、抗がん剤が効きやすい方もいれば、効きづらい人もいるということです。ではどのようにその判断をしているかというと、一つの指標としてはベースラインリスク(St.Gallen2007)というものが参考になります。

図は当日使用された資料より抜粋

これは、手術だけで薬物治療を行わなかった場合にどのくらいの再発リスクがあるのか、乳がんに関する様々な因子をもとにリスクを推計し、ハイリスクだった場合には、抗がん剤治療を行った方がいいですし、反対にリスクが低いのであれば、治療の意味があまりないので、ホルモン療法のみでということになります。

Q.  タモキシフェン服用時、ほてり・のぼせ、発汗などのホットフラッシュといった更年期症状はどのように対策すればよいでしょうか?

A. ホルモン療法は再発のリスクを減らすことができます。休薬したり、薬を変更したりしてもいいので、できる限り服薬は続けましょう。また症状が辛い時には医療者に相談しましょう。

タモキシフェン服用に伴う更年期症状の出現率は50%くらいありますが、自然閉経した方、もしくは手術で卵巣を摘出した方でも60%以上あると言われていますので、いずれ経験することを先取りしているイメージを持ってもらえればと思います。

個人でできる対策としては、香辛料や酸味の強いものなどの刺激的な食事は避けること、禁酒・禁煙、体重を5kg以上増やさないこと、服装に注意すること、運動をすることなどが挙げられます。

医療機関がお手伝いできることとしては、漢方薬を処方することがありますが、効果を実感される方は1割程度です。

乳房再建の今
〜形成外科医 倉元 有木子 先生〜

乳房再建の方法は3種類あります。

  • 人工物(インプラント)
  • 自家組織
  • 脂肪吸引注入(自費)

まず乳房再建をする・しないという選択肢があって、再建をする場合には、人工物を使うのか、自家組織を使うのか、脂肪吸引注入で行うのか、もしくはハイブリッドで行うのかということも考えないといけません。

さらに健側(編注:切除していない側の乳房)の下垂や、小さくて再建側とインプラントが合わないという場合、健側の手術をするのか、健側の手術はやめておくのか、乳輪乳頭再建をするのか、しないのかというところまで、たくさん考えないといけないことがあります。

お胸の形、お腹や脚の脂肪の量などについて医療側からのご提案はできるんですが、最終的には患者さんご自身でこの再建プランがよいと選んでいただく必要があります。

よくある乳房再建の流れ

乳がん手術と同時に再建する一次再建と、乳がん手術の後に行う二次再建があります。

そして、ティッシュエキスパンダー(編注:乳房再建を行うために皮膚とその周縁組織を伸ばす組織拡張器)を入れる過程を挟み、その後人工物もしくは自家組織で再建する二期再建、もしくは手術と同時に人工物もしくは自家組織で再建する一期再建に分けられます。

これを患者さんから見た乳房再建の流れとして捉えると、乳がん手術と同時に再建して手術回数を減らしたいという方は一次再建を選択されます。

一回で再建手術を終わらせたいという方は一次一期再建を選ばれますし、再建方法はまだ悩んでいる、あとは傷を小さめにしたいという方は一次二期再建を選ばれます。

図は当日使用された資料より抜粋

乳がんのことも心配で再建方法までは考えられないという方は、二次再建がよいと思います。この流れの中で、一次一期再建以外は考える期間がいっぱいあります。ティッシュエキスパンダーは、半年から1年、2年は体内に残していてもよいということがありますのでゆっくり考えて決めていただくことができます。

乳輪乳頭再建について

乳輪乳頭手術というのは位置がずれてしまってはいけないので皮膚の状態が落ち着いてから行います。また人工乳輪乳頭の場合は、傷が落ち着いたらいつでも使用可能です。オーダーメイドと既製品があります。

再建時期としては、インプラントを用いた乳房再建の場合、その術後3か月以降、皮膚の状態によっては6か月おくこともあります。また、自家組織移植による乳房再建の場合、術後6か月はあける必要がありますので、自家組織の形によって修正術(編注:左右差を減らすための手術)などを先に行う場合もあります。

乳頭再建方法は二種類あります。

一つは健側乳頭を用いた乳頭再建法です。健側乳頭が大きめの方にお勧めの術式になります。大体の場合、下半分を切って反対側に移植しますので、健側乳頭は少し小さくなります。

移植乳頭の壊死のリスク、移植乳頭部の処置が1か月程度必要になります。

図は当日使用された資料より抜粋

もう一つの乳頭再建法は、真皮脂肪弁を用いた方法です。健側乳頭が小さめ、健側乳頭にキズをつけたくない方におすすめの術式です。

こちらは長期経過で再建箇所が平坦化することもあります。そのため、平坦化予防のために内部に軟骨を埋めることがあります。

図は当日使用された資料より抜粋

乳輪再建ですが、大腿から皮膚を持ってきて移植する方法とタトゥーで色をつける方法があります。

健側乳頭を用いた乳頭再建を行った方の乳輪再建は、大腿からの皮膚移植かタトゥーで行います。大腿内側の濃い色の部分を紡錘形に切除して採取部は縫い縮めます。真皮脂肪弁を用いた乳頭再建を行った方は、乳頭も肌色のため乳頭・乳輪をタトゥーで色をつけます。

ただし、皮膚移植には移植後の壊死のリスクがあります。また、輪郭がグラデーションにならず、少しはっきりするというものになります。タトゥーより色の持ちはいいのですが、長期経過のうちに色が薄くなることもあります。

医療用のタトゥーを用いた乳輪再建法のデメリットとして、自費診療となります。傷がつかない一方で、経年的に色が薄くなってしまいます。薄くなった場合には希望に応じて追加のタトゥーを行う場合があります。

図は当日使用された資料より抜粋
図は当日使用された資料より抜粋

乳房再建なんでも相談会
〜形成外科医 棚倉 健太 先生〜

Q.  両側乳がんで全摘をしています。再建は片側のみと両側のどちらが難しいのでしょうか?

A.  私の感覚からするとインプラントと自家組織で少し違うかもしれませんね。

インプラントは健側の形によって向き、不向きがあります。片側の場合は、再建しやすい形(下垂がなく円形に近い)であればインプラントでもそんなに難しいことはありません。

両側の場合は、合わせるべき対象がないため、ある程度自由な形が作れる。ですからインプラントで再建する場合に難しくなる点がない。皮膚が伸ばせる範囲でエキスパンダーを膨らませれば、ある程度両側ともに好みの大きさで作ることができるので、簡単といえるかもしれないですね。 自家組織で両側となると難しくなるかもしれません。まず皮弁の血管の準備とその吻合(編注:ふんごう。血管や神経などを手術でつなぐこと)が単純に倍になります。お腹の皮弁を使う場合、端から端まで取っても乳房1.7個分だと思っています。ですので、左右に分けると0.8個分の材料となります。条件が厳しくなる場合があるというのは、両側なりの難しさなんじゃないかと思います

Q. 10年以上経過した古いインプラントから、自家組織での再建を検討しているが、メリットデメリットなどあれば教えていただきたいです。

A. 10年以上経つインプラントということは、おそらく自費の時代に再建された方と推測しますが、10年以上前に再建された場合、私の経験上ではありますが、体重が増えている方が多い印象です。体重が増えるとご自身の胸が大きくなるため、インプラントの大きさは変わらないのに、相対的に再建側が小さくなってしまうケースが多いと感じます。

体重増加による健側と再建側の左右差が出てしまっている状態から自家組織に転換するというと、メリットとしては今まで揃っていなかったものが揃うということになります。さらには、乳房を触った感覚が固かった人は柔らかく感じるかもしれませんし、体温の暖かみを感じられるという部分でも、インプラントと比べて自家組織の良さが実感できるのではないかと思います。デメリットとしては、お腹や背中、太ももなどから組織を取る際に新たな傷ができることではないしょうか。また、パッチワーク状に足りない分の皮膚を足す必要があるかもしれません。

Q. リンパ節に転移があり、またリンパ浮腫も発症していますが、再建はできますか?手術後の痛みや安静にしていないといけない期間も知りたいです。

A.  私の立場から言えることは、乳腺主治医の先生のご意見に従って、再建の許可が出たらそれはOKですし、その反対も然りです。リンパ節転移の有無よりも放射線治療の有無がネックになってきまして、エキスパンダーを挿入するハードルが高くなります。再建手術によって合併症が増えるということがありますし、エキスパンダーを入れるという選択肢を取ったとしても、ちょっとずつしか生理食塩水を入れられず、水を入れる回数が増えるということがあります。手術後の痛みに関しては、最も大きな痛みという意味では術後の3日間かと思います。お腹の皮弁を使う場合は、硬膜外麻酔というもので乗り切っていただくことになります。そこから先の痛みに関しては1〜3か月くらい続くと思います。お腹を縫うということで日常生活には問題はありませんが、3か月くらいは安静に過ごされた方がよいかと思います。

Q. エキスパンダーは何年以内に取り出さないといけないのでしょうか?

A. 専門病院の報告によるとエキスパンダーを入れてから2年を超えると壊れてくるケースが増えるそうで、それまでに取り出した方がいいのではないでしょうか。

イベントにはどんな方が参加しているのか?

術後、長期間経っていても、何かしら悩まれて参加される方が多くいらっしゃるようでした。そういった方にとって、定期検診の日を待たず気軽に相談できる場所があることは、とても心強いのではないでしょうか。

<年齢分布>

50代が一番多く49.0%

ついで40代が35.0%、60代が14%という結果でした。

<治療フェーズ>

乳房再建後60%、乳房切除済・乳房再建後30%と治療後の方が9割でした。

特に乳房再建については、座学だけでなく、実際に再建をしたゆるふわメンバーの胸に触れる機会もあり、心理的な安心感や自己受容感の向上が促され、手術後の自己イメージを改善できた方が多くいらっしゃったのではないかと思います。

今回の企画への想いを医師の方々に伺いました。

辻先生コメント

乳がんや再建は治療法が多岐にわたっていることはもちろんですが、ネット上に多くの情報が溢れていて、信頼性が低く誤った情報も数多く見受けられます。そのため、強く思い悩んでしまい鬱状態になってしまう患者さんも少なくありません。そのためやはり、治療を進める上では、主治医の先生と良好な関係を築いていただくことがとても大切です。その情報が「本当にあなたに当てはまるものなのか」を信頼できる主治医の先生に聞いたり、その他の不安な気持ちや疑問点を相談したりしながら、ご自身が納得できる治療法を決めていただきたいと思います。

倉元先生コメント

今回の「ゆるふわ相談会」のように、実際に乳房再建とはどんなものかを体験していただけることはとても珍しく、本当に良い機会だと思います。「乳房再建をしたらどうなるのだろう…」と不安を感じられている方や、「実際に目で見てからでなければ治療を決められない」という方は、またの機会にぜひ参加していただけるといいのかなと思います。

乳房再建に付随して、乳頭・乳輪のことやリンパのことについても相談を受け付けていますので、少しでも疑問や不安があれば、ぜひ来ていただきたいです。

棚倉先生コメント

乳房再建に限らず、どんな治療でも不安はあるものですが、いろんなリスクは考えたらキリがありません。だからこそ、「クヨクヨ考えるんじゃなくて、未来の自分をイメージしてほしい」と思います。まずは、ご自身が「どうすればハッピーになれるのか」というところを想像してほしいですね。

乳房再建について医療側から制限を設けることもありますが、私はあまり好きじゃありません。「患者さんがハッピーになれる」そして「そのためにいかに自由に行動するのか」、そのために乳房再建があると思っています。

ご自身の経験が活動の原点
〜ゆるふわ相談会の発起人 いしさん〜

今回のイベントの発起人である「いしさん」は、インタビューにて次のように話されています。

Q.はじめに、乳がんピアサポートチームゆるふわについて教えてください。

A.「ピア(peer)」は、「仲間」のことです。乳がん・乳房再建におけるピアサポートとは、乳がん・乳房再建体験者が、がん患者やそのご家族・ご友人へ実体験・悩み・情報などをお伝えしたり、不安や疑問を聞いてそれにお答えしたりする活動するということです。

現代において、がんは治療が終わったからといってそれで終わりではありません。医療技術が進歩して生存率が高まったからこそ、がんに関するさまざまな悩み・不安が増え、生きている限りそれが続きます。自分一人で悩むばかりでは、答えや方向性が見えずにつらく感じてしまうのではないでしょうか。

乳がんピアサポートチームゆるふわでは、がん経験者と現在治療中のがん患者と医療従事者が気軽に参加・交流できるイベントを実施しています。仲間同士で経験や悩みを分かち合うことは、療養や生活のヒントを得られ、心のサポートにつながるものです。ライフスタイルが多様化する現在、悩みも多岐にわたります。ピアサポート団体では、当事者同士だからできること、当事者同士でなければできないことを実現できるよう、様々な企画を実施していきます。

Q.今回のイベントを始めるまでの経緯を教えてください。

A.2018年、転職先から内定をもらっていた私は、早期の社会復帰を目指しインプラントの乳房再建を希望しました。しかし乳房切除後に感染症になり人工物埋入がNGに。そんな折、形成外科の棚倉健太先生から、内太ももの脂肪と皮膚を用いる自家組織再建をご提案されて再建を決意します。

再建後は太ももの傷が開く、乳頭・乳輪がほぼなくなるなどトラブルを経験。当時、乳房再建のリアルな情報が少なく悩んでいたため「同じように悩んでいる人をサポートしたい」と思い、ブログを開始します。

そこでいただく質問には棚倉先生にもご助力いただき、乳房再建経験者・医師の2つの目線からお答えしていました。そのうち読者さんと会う機会が増え、棚倉先生も交えて様々な活動をするようになります。

「第4期がん対策推進基本計画」で掲げられる「がんとの共生」では、「相談支援及び情報提供」が掲げられています。私は活動を通じて「患者同士の交流の大切さ」を実感し

てきました。そこで棚倉先生を通じて三井記念病院の皆さまにピアサポートの重要性をお伝えし、今回の「ゆるふわ相談会」の実現に至りました。

棚倉先生が患者さんと垣根なく向き合える懐の深い方だからこそ、実現できたと思います。

面と向かってなかなか言えませんが…いつもありがとうございます!

【参考】

<初イベント>ヨガとお食事会

<お食事会>参加者の内8名でゆるふわ相談会を運営

Q.今後ゆるふわの活動をどうしていきたいと考えていますか?

「ゆるふわ」の目標は、仲間と助け合い楽しく活動することです。

運営メンバーのやりたいこと挑戦したいこと、ご参加くださる皆さまのご希望も盛り込み「ゆるゆるふわ~~~っ」と続けたいです。

特に、「乳がん告知に震えている」

「胸を失うことが怖い」

「乳房再建に悩んでいる」

「乳がん治療後のアピアランスで困っている」

「乳がん治療の副作用がつらい」

「結婚・出産・育児・介護・仕事への不安」など、

乳がんや乳房再建で不安を感じている方はぜひ来てください。

大丈夫、一人じゃないよ!

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太ももの脂肪を利用した自家組織乳房を再建した経験や、仕事に悩みながら治療を続けた日々などについて綴っている。

ご自身の経験から相談できる場所を作りたいと「ゆるふわ相談会」を開催。

WithMiではいしさんの体験談を紹介しています。

※掲載された情報は、公開当時の知見によるもので、現状と異なる場合があります。また、治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありませんし、治療方針については当社が推奨するものでもありません。ご自身の主治医とよく話し合い、最善の治療を選択してください。

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